mikarn777’s diary

歌詞や小説、時々日記など載せていきます。

【Eater】人喰青年血染喉詩【EP0】

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食うか食われるか

弱肉強食

それは自然の摂理

食わなければ生きられない

食わなければ食われるだけ

飾り付けられたそのステーキをあなたは可愛そうだと思いますか?

ふと、愛する人を食べてみたい、そう思ったことはありませんか?

No.Eater

食べちゃダメそんなことは分ってる。


他の作品も是非読んでみてください。
随時投稿しています。
表紙の画像も募集しています!
人気があれば続編を書きます。


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人間とは多くの尊い命の犠牲の上で生きている。しかし我々は生態系の頂点に存在してきっとそんな事は忘れて過ごしている。喰われる事は無い。我々が王だ。
✳︎
苦しい。苦しい。苦しい。動けない。何も見えない。食われる。このままじゃ食われてしまう。
どうしてこうなった。どうしてこうなったんだ。分からない。思い出せない。何処かの部屋というのは分かる。縛られた手首。目隠しと猿轡。そして硬い椅子に縛れている。何が起きているのか思い出せない。苦しい。これから何が起きるんだろう想像もしたくない。
何となく奥の方から人の気配がする。ぺたぺたと足音が聞こえる。靴じゃない。
「ゔうう」
叫ぼうとしたが猿轡のせいで声が出ない。ヨダレが零れる。苦しい。ここはどこなんだ。
「少し細いな」
「すいません」
ひとりじゃない。二人いる。何者なんだ。気が狂いそうだ。
「君はいったい何者なんだ?ひとりじゃないよね、人間なのか?食べてもいい者なのかい?でも君からはいい香りがする。嗚呼食べてみたい」
「ハーフって言うやつらしいです、こういうのたまに生まれて来るらしいです、美味そうでしょ?」
「ゔゔ」
食べる?何を言ってるんだコイツらは?僕をまさか食べる気じゃないだろうな。とりあえずここから出たい。苦しい。
「これ外していいんじゃないか?」
「ああ、そうですね」
グッと目隠しが引っ張られそのままちぎられる。そこには知らない男が2人たっていた。
「ヴヴ!!」
まだ話すことは出来ない。
「いい目をしている。綺麗な目だ。そそられる。嗚呼!嗚呼!嗚呼!たっちまうよ」
なんだこいつらは人間じゃないのか?牙が見える。狂ってる。このままじゃやばい。殺される。どうにかしないと。力いっぱい椅子を揺らすが解けそうには無い。

「そうそうそうそうそう!暴れて暴れて、やっぱり人間は踊り食いに限る。もっといい表情にさせてあげる」
そういうと男たちは口が裂け、みるみる化け物に変容した。虎や獅子に似ている。獣の様子。光る眼光。生え揃うインディゴの毛並み。グロテスクだ。こいつら一体何者なんだ。ヤバすぎる。はやくどうにか解かないといけない。何度も何度も何度も椅子を揺らす。解けない。
一瞬の事だった。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」
一匹が僕に噛み付く。
寸前でもう一匹に止められる。助かった。
「俺が先だ」
それも一瞬の出来事だった。気がついたらその鋭い牙は僕の肩にめり込んでいた。そして遅れて耐え難い痛みに襲われる。
「ヴヴヴッッ!!」
痛い!激痛だ。涙も溢れる。
そのまま服ごと食いちぎらる。その瞬間はスローモーションに光景が映った。血が吹き出す。紅い真珠が弾け飛ぶように空中に舞う。僕の顔にもかかる。生温かい。
「ババババババッバッバババ!ググググッグウ!!!!」
苦しい!僕は精一杯の声を出した。しかし悲鳴を上げることも出来ない。
「嗚呼嗚呼嗚呼!美味美味美味!最高だ」
限界だ。誰か助けてくれ。
「俺もいただきます」
その時だった。限界だった。僕は意識を失った。朦朧とする景色の中で猿轡を噛み砕いて口の中が切れたのまで覚えてる。

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気がついたら森の中にいた。血だらけで肩に痛みが走る。あれは夢ではなかったのだろうか、だが傷は本物だ。一体ここはどこだろう。さっきの化け物は何者なんだろう。あいつらはどこに行ったのだろう。また来るまでに逃げなければならない。
とりあえず歩いてみようか。

見た事の無い景色。ここは何処なんだろう。東京じゃないのか?記憶がない。最近どうも記憶が曖昧だ。スマホもないし財布もない。それがこんなに不便だとは思わなかった。はやく家に帰りたい。いやまずは医者いや警察か、だが今あったことを話したところで信じて貰えるだろうか。肩がとにかく痛い。どうやら血は止まってはいるようだがはやくどうにかしないといけない。

いったいどれくらい歩いたのだろう、何時間歩いたのだろう日もだいぶ傾いてきている。
でもようやく森を抜けたようだ。田畑が目に入る。見つからないが人の気配がする。
とりあえず電話を借りて彼女に電話をしなければ、どれくらいの日にちが立ったのか分からないがきっと心配しているだろう。いや待てよ、彼女の電話番号なんて分からないな、どうするか、彼女の職場にかけようか、迷惑をかけてしまうかも知れないが仕方ない。とりあえず今は人を探さなければ。
やっと遠くに人影が見える。軽トラと老人。助けを求めよう。いや不安になってきた。あれは本当に人間だろうか、噛み付かれた記憶がフラッシュバックする。額に脂汗が滲む。鼓動も徐々に早くなっている事に気付いた。
しかしこの状況を打開するには彼に頼るしか無い。傷が痛む。
「あ、あの、すいません、あ、あの」
老人は不思議そうな表情でこちらを見つめる。

「すいません、変なことをお聞きしますが、ここは何処ですか?」
「ん?ここは沼田だべ。あんちゃん道にでも迷ったのか?」
「沼田?沼田ってのは何県ですか?」
群馬県だべ、てか肩大丈夫か?熊にでも襲われたのか?だいじか?」
「はい、近くに病院はありますか?」
「あっけど、ここからは1時間はかかるぞ、のっかてくか?」
「あ、はい、お願いします」
おそらく普通の人だろう。今はそう信じるしか無い。お言葉に甘えて、このまま連れて行って貰おう。早くしないと意識が飛びそうだ。
お爺さんが軽トラックのエンジンを掛ける。
「おう、はやく乗れ」
「ありがとうございます」
車に乗り込む。
「揺れっけど我慢してな」
シートベルをして走り出すのを確認したらもう限界だった。強烈な睡魔に襲われて。意識を失った。
✳︎

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ここは?白い天井とカーテン。
「先生!意識が戻られました」
ここは病院か、少し安心した。腕には点滴が刺さっている。白衣を着た男性。
「君自分の名前は分かるかい?」
「僕は風間ルイ、ここはどこですか?」
「風間君、ここは群馬堀越病院。お爺さんが血だらけの君と山で出会ったと言って運んできたんだ。何があったか覚えているかい?この傷はどうしたんだい?」

「僕は、えっと、大学の講義の後、そう講義の後だ、何者かに眠らされ無理やり連れ去られて、どっかの施設にいたんです。そこで化け物に襲われて、肩を噛まれました。あの、信じてくれますか?本当なんです!」
「大丈夫、落ち着いて、その後は?」
「あ、えっと、そのあとは、えっと、あ、また、覚えてないです。気付いたらあの山の中にいました、自分でも何があったのか、でも、本当なんです!」
「大丈夫、落ち着いて、私にはその何者かの正体は解らないが、正直君の傷口は熊や野犬のそれとは一致しない。深堀はしないがもしかしたらそういった類のものなのかもしれない、まあ、安心して下さい傷の方は命に別状はありません。すぐに退院できるでしょう」
「あ、ありがとうございます」
「今日は何月何日か分かりますか?」
「えっと、6月9日?いや、どれくらいたったのだろう、すいません分かりません」
「今日は6月13日です」
「え、あ、そうなんですか」
「どなたとお住まいですか?ご家族はいらっしゃいますか?もしかしたら捜索届けが出されれるかもしれませんよ、連絡しますか?」
「あ、はい、お願いします」
携帯電話を渡された。彼女にかけようと思ったが電話番号が覚えていなかった。
「どうしたの?」
「いや、あの番号が分からなくって、勤め先の連絡先調べてもらってもいいですか?」
「ああ、構わないよ」
スマホを渡された。最初からこっちを貸してくれればいいのにと思った。検索サイトで彼女の職場のホームページを開く。電話番号が記載されていたのでそこにかける。迷惑だろうか、だが緊急事態だ仕方ない。

「お電話ありがとうございます、こちらマルヤマ薬局杉内がお受けします」
「もしもし、あの、葉月、葉月ユイナはいますか?」
「申し訳ありません、葉月の方は今不在でわたくしでよろしければ、代わりにご用件をお伺いいたします。いかがでしょうか?」
「あの、葉月と交際している風間というもので今電話を無くしてしまって、電話番号を教えてもらいたいのですが」
「え!彼氏?ああ、本物ですか?今どこにいるんですか?ユイちゃんずっと探してますよ」
「えっと今群馬の病院にいて、あの、とにかくすぐにでも連絡を取りたいんですけど」
「わかりました、電話番号を教えるのはアレなのでユイちゃんに病院の電話番号を教えるのはどうですか?」
「え、ああ、はい」
面倒だ。確かに証拠も無いのに個人情報を教えるのは危険だ、だが今は緊急事態、この対応に少し苛立ちを感じる。
「先生ここの電話番号は?」
「うん?ああ、027ーXXXーXXX」
「027ーXXXーXXXでお願いします」
「はい、かしこまりました、ちゃんと伝えておきますね」
電話が切れる。とりあえずはこれで待つしか無い。
「連絡はついたかい?」
「あ、はい、ありがとうございます」

✳︎
「やっぱり捜索届けが出てたよ、このあと警察の方がいらっしゃるようだよ」
「え、警察?」
まあ、そりゃそうだろう、でもあの出来事をどれだけ信じて貰えるだろうか、どれだけ信じていいのだろうか、ため息が零れる。誰が捜索届けを出したのだろうかユイナが出してくれたのだろうか、警察嫌いなはずなのに。
窓の外は雲一つも無い晴天だ。小鳥が羽ばたいている。あの老人はもう帰ってしまったのだろうか、ちゃんとお礼が言いたい。ユイナにはちゃんと連絡がいっただろうか不安だ。
✳︎
「風間さんお電話です。葉月さんです」
軽く会釈をして電話を受け取る。
「もしもし」
「ルイくん!大丈夫!?何してたの?どこにいるの?」
「ユイナ、ごめん、いろいろあって今群馬の病院にいる、本当にごめん、心配かけて」
「どうしたの?怪我したの?病気?」
「そうなんだ、肩をね」
「え、何したの?病院?今から行くね?」
「え、まあ、ちょっとね、これるの?」
「うん、行く、今すぐ」
「わかった、とりあえずスマホ無くしたから電話番号教えてくれない?」
「え、う、うん080ーXXXXーXXXX、ルイくん、死なないよね?」
「うん、傷は痛むけど命に別状はないって」
「よかった、私心配で本当に心配で、本当に生きててよかった、わかった本当に今から行くからね」
「わかった待ってるよ」
電話越しでも泣いているのがわかった。心配かけて申し訳ない。心が痛む。

電話は切れた。久しぶりにユイナの声が聞けて安心した。緊張の糸が解ける。電話を返しに立ち上がろうとしたがまだ傷が痛む。まだいいか、そのうち取りに来てくれるだろう。ユイナどれくらいかかるだろう、スマホで調べようと思ったが持っていないのだった。退屈だ。スマホがないとする事がない。外にも行けないし、ユイナが待ち遠しい。
暇だな、もう眠気もない。いざスマホを手放すとどれだけ依存していたのか分かるな。窓の外には空と山と駐車場、大自然だ。たまにはこういうのもいいのかも知れない。窓際のベットでよかった。日差しが温かい。
ズキっと傷が痛む。しかしアレはいったい何者だったのだろう。分からない。思い出すだけで悍しい。動悸がする。苦しい。ここは本当に安全なのだろうか不安になる。
嗚呼喉が乾いた。腹も減ってきた。ここの料金とはどうなるんだろう、財布もどっか置いてきちゃったしカードもその中だ、いったいこのあとどうなるんだろう。
「風間くんよくなりましたか?」
「ああ、だいぶ気分は落ち着いてきました」
「怖い体験をされたのだとか」
「あ、はい、そうなんですよ、あの、何か飲み物いただけないでしょうか?」
「お水なら大丈夫だけど、それでも良ければ今持ってくるね」
炭酸が飲みたい。若い看護師は嬉しいが正直注射が下手だ。注射に限っては熟年の技術で刺してもらいたい。
「はいお水ここ置いときますよ」
「あ、はい、ありがとうございます」
ゴクリと喉を潤う。気持ちがいい。少し落ち着く。

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二人組のオッサンが病室に入ってくる。煙草の匂いがする。
「風間ルイ君?」
「はい」
ついにきた。警察だ。緊張感が走る。
「私は警察の吉田と言うものです」
警察手帳を見せられる。
「ああ、はい」
「傷痛む?」
「はい」
「それはお気の毒に、何やら怖い体験をされたとかで、大変でしたね、それでですね、その件について詳しく、ゆっくりでいいので思い出せる範囲で全然大丈夫なんで何があったか教えて貰えるかな?」
「え、まあ、あの、本当にあった話で僕は嘘偽り無く話しますが信じてくれますか?」
「辻褄が合えば、或いは」
「そうですか」
「まず貴方を誘拐した相手はどなたか分かりますか?」
「いえ、まったく知らない人でした」
「犯行動機は分かりますか?」
「いえ、いや、その、僕を、僕を食べようとしていました」
「食べる?なんのために」
「いえ、それは分かりません」
「大学の講義のあとに車で誘拐された?抵抗は出来なかったのですか?」
「あ、はい、力も強く無理やり、背後から掴まれて乗せられましたね」
「んーなるほど、車の色とかは覚えてますか?」
「いえ、すぐに目隠しされてしまったので」
「そうですか、その傷はどういうふうに出来たんですか?」
「その、噛み付かれたんです、無理やり、そのまま」
一瞬間が開き警察官は目を合わせていた。
「んー、なるほどなるほど、では確信に迫る質問をさせて貰います。それは人でしたか?」
「あ、え、いや、いいえ違います、お巡りさん!アレをなんだか知っているんですか?」
「それはこんなやつじゃなかったですか?」

1枚の写真を見せられた。
そこに映るのは横たわるのは私を襲った化け物に似ている。インディゴの獣。虎やライオンに似ているが全く違う。これは一体何なんだ。気持ちが悪い。
「はい、こいつです!これは、これはいったいなんなんですか?」
「これはEaterと呼ばれる生命体だ。要はざっくり言うと化け物なんだが、詳しい話になるとUMAに近いのかもしれない」
「え、どういうことですか?」
UMAはご存知ですかか?」
「あ、はい、なんとなくは分かります、あの、ネッシーとかツチノコとかのことですよね、でも、いや、それらは存在しないんじゃないんですか?」
「君がEaterの存在を否定するのかい?」
「いや、それは、でも、最初は人間の姿をしていました」
「そこが問題なんだ、あいつらは人に擬態する、いや、元々人間なのかも知れない、そしてここだけの話そいつらがいま暴れまくってる、困ったもんだ、君みたいな被害者がたくさんいるんだろ、まあ国が隠しているから世間的なニュースにはならないが」
「え、何でそんな危険な物を隠しているんですか?」
「それは私たちにも分からない、国は何かを隠している」
「そんな」
「もちろん君にも他言無用でお願いしたい」
「え、あ、はい、でも、いや、分かりました、Eater、そんなヤツいるんですね、そいつらいったい何をしてるですか?目的はなんなんですか?」
「そりゃEaterって名前の通り人を食べるんだよ。何故だかね、美味いのかもね、最近は事件が増え過ぎて大変だよ、見てみるかい?」
「いや、それは僕には厳しいかも知れません」
「冗談だよ、まあでも安心しな施設にいたEater1匹は死亡だって、もうひとりも血痕から見るに重症らしい、風間くんとりあえずは安心してくれ」
「死亡?犯人はもう見つかったのですか?」
「ああ、多分仲間割れだろう、もう一体もすぐに捕まえる、安心してくれ」
「そうですか、それならそれならよかったんですげどあの、Eaterは弱点とかあるんですか?どうやったら殺せるんですか?僕このままじゃ」
「弱点ね、それは人間と同じで飢餓でも死ぬし、病気とかでも死ぬだろう、まあ君が言いたいのはそういう事じゃないよな、ここだけの話君を安心させる為教えるが警察には対Eater用のピストルを持っている」
「そうですか、なるほど、いいですね、あの、それもらえたりしないですよね」
「もらってどうする気なんだい、当たり前だが普通の銃と同じようにー般人には厳しいな、不安なのは分かるがそれは出来ないよ」
「やっぱそうですよね」

「ルイ君!!」
「ユイナ!!」
ユイナが病室に飛び込んできた。

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「傷大丈夫?」
「なんか僕化け物に狙われてて食べらそうになって」
「風間君」
警察官に睨まれる。
「警察?」
ユイナが警察を睨み返す。
「すいません、でも彼女には全て知っていて欲しくて、お巡りさん、お願いします」
警察官はまた二人で目配せしている。
「まあ、そりゃそうだような、ここだけの話ってのはこうやって広まって行くんだ、今の時代SNSだってあるんだ、人間みんな黙秘なんて出来やしない、上さんもいつまでも隠し切れやしないんだ、仕方ない」
「すいません」
「特別だぞ、私たちもあくまで上の命令の下で仕事をしているんだ」
「はい」
「彼女さん、極秘事項なのですが今回特別にお見せします、これが今回の事件の犯人です」
警察官は写真を見せる。
「え、何これ、CG?動物?本物?」
「Eaterという生き物です」
「何これ、本当?ルイ君」
「ああ、信じられないかも知れないが、本当だ」
一瞬病室に沈黙が包む。
「怖かった?」
「うん、そうだね、死ぬかと思ったよ」
また警察官は目で合図し合う。緊張感が走る。
「ところで本題に入りたいのだがいいかな?」
「あ、はい、何でしょう」
「君たちはダーウィンの進化論は知っているかい?あの、猿から人になっていく絵を見たことあるだろう、そこでだ私はEaterは人間の進化の先にいると考えている。ならいったいEaterはどうやって生まれると思う?私は考えた。出産か?否。まだ考察の域を超えないが進化の方法を」
視線は鋭く淡々と話す。ゴクリとツバを飲みこむ。
「木崎!!」
「はい」
黙っていた方の警察官が動き出した。驚いた。何をする気だろう。そう思うと彼はポケットからナイフを取り出す。こいつ本当に何をする気だ。僕は最悪の想像をする。
「よく見てろよ!」
そいつは手にナイフを押し付けて力一杯グッと押し付けていく、ブスっと奥まで入っていく。いやらしい肉の断末魔、聞きたくない。その光景を僕は、いや、きっと彼女も目を離せなかったはずだ。唖然とする。体も震えて声も出ない。この後いったい何が起きるのだろう。僕はこの後起こるであろうの未来を想像して硬直する。
「ねえ!ちょっと何しようとしてるの!?」
我慢できなかったのはユイナだった。
それでもそいつは手の奥まで入ったナイフを一気に引き抜いた。その瞬間腕は真っ赤に染まった。真っ赤だ。綺麗だ。細い指先にそれを刺し盛りしたらさぞ絶品だろう。いったいどんな味がするのだろう。きっと甘くて濃厚なはず。今すぐ吸い尽くすしてしまいたい。唾液が溜まる。無意識で唇を舐める。嗚呼綺麗な赤だ。滾る。
「ねえ!本当に!何をしているのですか!?」
彼女が叫び、僕はハッとする。
「悪いね、仮説を試してたんですよ、ちょっとした実験です、先ほど説明したじゃないですか人間の進化がEaterだと、私の説です、EaterというのはEaterから人間に伝染すんじゃないのかって、それでね、風間くん君はまだ人間かい?」
「は?何言ってっんですか?」
「私は今風間くんに質問しています、今なんて思った?食べたいって思わなかったかい?この腕、この血液、食べたいと思わなかったかい?」
「何言ってるんですか?思わないですよ、思う訳ないでしょ!僕を疑っているんですか?やめてください!僕は人間ですよ」
僕は人間。僕は人間。僕は人間。僕は人間。僕は人間。今までも、これからも変わらず。

「もういい、傷の手当てして持って来い、血を見ても変身しなかったか、私の仮説は外れたのか、いや、うん、どうなのだろう」
自分でも分かるくらい心臓の鼓動は高鳴っていた。呼吸も苦しい。額には脂汗が滲んでいた。手先も震える。それはユイナも同じようだ。
「そうですよ、何を言ってるんですか、本当に、僕は普通の人間で被害者です! 傷、大丈夫ですか?」
「申し訳なかったね、私たちも本当は怖いんだ、数%でも有り得る可能性は一つ一つ潰して行かないと行けないからね、私たちも命をかけて未知と戦っているんだ、多少の無理は捜査の範囲として許してくれ」
「いや、でも、にしてもやり過ぎだ」
「すまない」
「お巡りさん」
「ん?」
「もし、もし僕をEaterと判断していたらどうしてたんですか?」
「聞きたいかい?」
「はい」
「君の想像した通りだよ」
唾を飲む。それしか僕には出来なかった。
「ではまた明日来るよ、些細のことでもいい何か思い出したら話して欲しい。名刺も渡しておく何かあったらそこにかけてくれ」
「はい、分かりました、ありがとうございました」
「でも君傷の回復めちゃめちゃ早いな、じゃあまた来るわ」
そう言って病室から警察官たちは帰っていった。

✳︎
「駄目だ、逃げよう!」
「え?」
「ルイくん!ここに居たら駄目だよ」
「え?何で?」
「何でもここにいたらダメな気がするの」
「いや、でも」
「警察なんて信じられない」
「うん、そうだけど、でも」
「怪物からも今度は絶対私が守るから、帰ろう、家に」
必死な瞳。うるう涙。緊迫した空気。真剣な表情。息をする間も忘れそうになる。
「でも、うちに帰ってもすぐ見つかるよ」
「どこでもいい、どこでもいい、どっか遠い所に一緒に行こう、お金はいっぱいは無いけど、私が働くから!ここに居たらルイくんが一人でどこか遠くに行っちゃう気がして、そんなの絶対嫌!もう一人ぼっちにはなりたくない」
一瞬の間。戸惑いはあったが圧倒された。自分自身も現状に不満はあった、しかし変える不安もある。だがやってみるしか無い。どっちにしろこのままでは玩具にされるそんな予感がしていたからだ。
「分かった、うん、行こう」
「それ」
「うん」
「抜いてあげる」
僕はユイナが話終える前に腕に刺さった点滴の針を引き抜いた。痛。
「え、大丈夫?」
「大丈夫、行こうか」
ベットから立ち上がり、病室を出る、廊下にを見渡すと看護師たちが忙しそうに行き交う。僕たちは平然を装い階段を降る、ここで関係者にすれ違ったら一巻の終わりだ。緊張感が走る。
偶然、数人にはすれ違ったが話しかけてくる人はいなかった。そのままロビーに出る。ここは人がいっぱいいる。かえって僕たちには好都合だ。このまま病院の外に出る。

目に映るのは駐車場と山と空。もう日は落ち始めていた。立ち止まっているとユイナが手を引く。
「こっち」
停まっているタクシーに向かう。ドアが開く。ユイナが乗り込む。続いて僕も。
「どちらまで?」
「一番近い駅までお願いします」
「かしこまりました」
タクシーが走り出す。
本当に脱走してしまった。まだ鼓動が落ち着かないのが分かる。医療費とかはどうなるのだろう。申し訳ない。
走り出した車内では沈黙が続く。ユイナは後続車を気にする。僕はその様子をただ見つめるしかなかったのだ。いったいこれからどうすればいいのだろうか大学や友人やバイト先はどうなっているのだろう。Eaterあいつらのせいで僕らの人生はめちゃめちゃだ。私は怪物になってしまったのだろうか、いやそんな筈はない、何の証拠があるんだ、僕は人間だ。ため息が零れる。
「大丈夫?」
「うん」
「つけられてる」
「え」
偶然だろうか後ろには黒のクラウンが私たちの後をつけている気がした。警察の関係者か、それとも怪物の仲間か、それは分からない。
「どうしよう?」
「たまたまって事は無い?」
こちらが右折すると後続車も右折してきた。偶然と願いたい。
「あ、すいません、あそこでいったん降ろしてもらっていいですか?」
「はい、かしこまりました」
大型のショッピングモールだ。確かにこの患者衣では目立ち過ぎる、それに後続車が止まるかも確認できる。

駐車場に停車する。ユイナが料金を払って店に入る。後続車も車を止めた。
「どうする?」
「どうするか?」
中にいたスーツ姿のオッサンも入ってきた。
服を適当に選んで抱える。レジに並ぶ時間は無い。
「これください」
そう言ってユイナは万札をメンテナンスをしていた店員に渡す。選んだ服は上下でも4千円くらいの筈だ。しかしそうも言ってられない。
「え」
店員は戸惑っていた。
ユイナは私の手を取って店内を走り出す。スーツも走り出す、全力疾走。人をかわす。マネキンをかわす。品物をかわす。とにかく走った。客に紛れて、走った。人混みの中を走り続けた。店の外まで出た。
「こっち!」
息が苦しい。心臓が苦しい。傷口が痛む。外に出るとあたりはもう真っ暗だった。その事もいい影響して逃げ切る事が出来た。多分見失っただろう、ついて来るものはいない。
「苦しい」
「怪我人をこんなに走らせるなよ」
「しょうがないじゃん」
二人とも息が上がりやっとの思いで話す。まだ苦しい。しかし何故だか高鳴る鼓動に生を感じた。
「あの買い方はないわ、店員めっちゃビビってたじゃん」
「しょうがないじゃん!」
人影ない路地で買った服に着替えた。少し安っぽいが仕方がない。
「この後どうする?」
「とりあえず高崎に行こう」
「高崎?」
「うん、いろいろそろえたいし、人混みの方が逃げやすいと思う」
「そうか、何で行くの?またタクシー?」
「いや、もう駅も近いから電車で行こうと思う」
「大丈夫かな?」
「賭けるしかないね」
「うん」
「どうしたの?疲れた?」
「うん、ちょっとね」

✳︎
僕たちは無事に電車に乗る事が出来た。何でこんな事してるのだろう、いつまでこんな事すればいいのだろう、これからどうなるのだろう、嗚呼腹へった。電車に揺られる。
「大丈夫?」
「ちょっと痛む」
「やっぱり間違ってたかな?」
「どうだろう、うーん、分からない、でも行けるとこまで行ってみようよ、なんか悪い事してるみたいで少し面白いし僕はユイナと一緒ならどこに行ってもいいと思ってるよ、これも何かの運命なのかも知れないね、もうなるようになれって感じ」
「うん、私もルイくんと一緒にいたい!頑張ろう、きっと大丈夫、うまくいく」
✳︎

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車内は揺れる。ズキズキと傷にしみる。ちょうど帰宅の時間だろうほぼ満員に近い。皆、眠るか、スマホを使うかだ。正面には女子高生が座る。短いスカート。白い太もも。
肉。肉。肉。肉!肉!肉!
唾を飲み込む。今すぐかじりつきたい。嗚呼、気が狂いそうだ。どうしたんだ、僕は、違う物見なければ、OL、サラリーマン、赤子、なんて美味しそうなんだ。いや違う、やばい。空腹でおかしくなりそうだ。そうだ、僕は空腹でおかしいのだ。決して、違う違う、そうじゃない。
「ルイくん?」
ユイナは僕の頬に手をあてる。
「大丈夫?お腹すいたね、何食べよっか?」
「え、ああ、うん」
何度も何度も唾を飲む。そうしてないと正気を保てそう無い。

✳︎
高崎についた。初めて来たが思ったより大きな駅だった。人も多い。
「行こう」
「うん」
「とりあえず必要な物色々買わないと」
「そうだね」
とりあえず改札を出て、駅周辺で必要そうな物を買い占める。
僕はコンビニでおにぎりを買ってもらい、それを食べる、具は一番好きなシャケだ。悪く無い。うん。悪くは無いのだが何故だろう果てしない根底にある飢餓は治らないような気がする。
「こんだけ買ったらとりあえず大丈夫でしょ」
ユイナは新品のキャリーケースを転がす。
「どこいく?」
「そうだね、無人島でも行く?」
無人島?」
「冗談、とりあえず今日はどっかホテルに泊まろう」
「え、ああ、そうだね」
ユイナはスマホで道を調べる。
「近くにある?」
「うん、あった、行こう、あ、その前に痛み止め飲む?」
「ああ、うん、飲んでおこうかな」
「水買って来るね」
「うん」
ユイナは近くの自販機に駆け込む。
「はい、これ」
「うん、ありがとう」
薬を飲み込む。苦い。すぐに水を流し込む。これで少しは良くなるだろう。また僕たちは歩き出す。

✳︎

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ホテルに着いた。ここは一軒一軒が独立していてロビーで顔を合わせなくても会計ができるタイプだ。都合がいい。
入室すると煙草の香りがほのかにした。照明は明るくインテリはゴージャスだ。鏡は大きい。マッサージチェアもある。僕はソファに座り込む。ユイナも座る。
「疲れたね」
「うん」
やっと安心できた気がした。今日は本当に衝撃的な1日だった。それは彼女にとっても同じだろう。ユイナは350缶のビールを開けて飲み込む。いいな、僕も飲みたい。
「これからどうしよか」
「うん、どうしようか、逃げ続けるのかな、化け物からも警察からも、ユイナはいいの?」
「ルイくんと別れるくらいなら、死んだ方がまし、って思う、それってちょっとメンヘラっぽいかなあ?でも結構本気で思ったりなんかしてるよ、約束して欲しい、何処にも行かないで、ずっと一緒だって」
「うん、そうだね、でも大切だからこそ危険な目に合わせたくないし、傷つけたくない、何が正解何だろう」
「別れたい?」
「いや、それは絶対嫌だ。矛盾してるよね、でもずっと一緒にいたいと思っているよ、それは本当に、お互い特殊な生い立ちなんだ、どんな事があっても二人なら絶対幸せになりたいと願ってるよ、何があっても、きっと、きっとうまくいく、そう信じるしか無いよね、普通でいいんだ、普通の幸せになる、いや、する」
「うん、大丈夫だよ!きっと大丈夫、私が守り切るから、もう誰も失いたくない」
「僕はあの日ユイナの告白を聞いてこの子は絶対僕が守り切るんだって誓ったんだ、傷が治ったら僕が守る、いや傷だらけになっても、もし灰になっても守らないといけないと思ってるよ」
「ありがとう、でも無理はしないでね」
「うん」
「でも怪物の目的は何なのだろ?何でルイくんを狙ってるのだろう」
「それなんだけど、なんか僕美味いらしいよ」
「え、本当?食べてみようかな」
「まあ、いいけど」
「警察の目的は何だろう?」
「疑ってんでしょ、ルイくんの事、適当な推理して、国家の犬が何が怪物狩りだよ!滅ぶべきは人間の方じゃない人間なんていくら食べられても構わない!稲田のやつをぶっ殺してくれれば最高何だけど」
「ユイナ口悪いな飲み過ぎじゃ無い?でもそこは確かに警察は、国は間違っていると思うよ。政治家の息子だからって大した捜査もしないでのうのうと普通の生活を送っている、そんなのは間違っている、人を殺したら死刑になるべきだと思うよ」
「死刑どころか逮捕すらされてない。あいつのせいであいつのせいで私は全部を失った。可愛かった弟も優しかった母も、頼もしかった父も、帰ったら物音一つなかった血の海だった、滅多刺しだって必要以上に何度も酷過ぎる。今でも思うよ殺したいって間違ってるかな?私は怪物?」
「そんな事ない、ユイナは間違ってないよ。その怒りは忘れちゃいけないモノだと思う、この世には平和ボケして綺麗事を言う偽善者がいるけどあいつらは地獄を知らないんだ、同じ目にあったらきっと平然ではいられない、でも、だからこそユイナには幸せになって欲しいし何があってもユイナは僕が守り切るから」
「ありがとう、あの頃一人ぼっちだった私を救ってくれたのがルイくんだった。やっと出会えた大切の人、世界はまた私から奪おうとする、もうそれは許せない」
「うん、大丈夫、僕はどこにも行かないよ」
ユイナは涙とアルコールで目が真っ赤だ。

ユイナの頭を優しく撫でる。抱きついて来る。痛い。
「ごめん痛かった?」
「ううん、大丈夫」
そっと抱き寄せる。額にキスをする。そしてそのまま唇に。安心する。
「シャワー浴びよう」
「うん、先、いや、」
「ああ、そっか、一緒に入りましょう」
「はい」
浴室に向かう。透明だ。
服を脱ぐのも一苦労だ。
「大丈夫?脱げる?」
「あ、うん」
奴らに抉り取られた傷口は生々しく赤黒く存在を主張していた。そっと手でなぞる。
「痛そうだね」
「うん」
ユイナも服を脱ぐ。黒い下着。白い肌。華奢で豊満だ。しなやかな裸体は曲線が美しい。傷モノの僕とは違う。それは尊くて儚い。
ジャグジーに水を溜めるとカラフルに光って幻想的だ。浮かれたカップルたちは泡風呂にしたりするのだろう。私は入れないが、ユイナはシャワーを出す。少しずつ手で温度を確認する。ユイナが先に浴びる。
「大丈夫そう、ほら、こっちに来て、ここは濡れないようにね」
「はい」
そっと髪にお湯をかけてもらう。温かい。命の洗濯だ。まるで子供の頃に戻ったようだ。久しぶりに髪を洗って貰う気持ちがいい。
「幸せだ」
「うん、そうね」

✳︎
体を丁寧に拭き取りバスローブに着替える。傷口をガーゼと包帯で塞ぐ。看護学校に行っていたユイナには容易なものだった。
「ありがとう」
「続き、しようか」
「うん」
ユイナはバスローブを脱ぐ。
「無理はしないでね」
「うん」
ブラジャーを外す。
白い肌。乳房。二の腕。太もも。首筋。指筋。関節。髪。耳。眼球。鼻。唇。鎖骨。爪。踝。肉。肉。肉。肉。肉。肉。肉。肉。

「痛ッ」
「え?」
気が付いたらユイナの首元に噛み付いていた。瞬時に冷静になって止める。少し血が出てる。
「え?何で?大丈夫?」
「食べないの?」
「え?」
「いいよ、食べて」
「え?何言ってんだよ!食うわけないだろ」
口に残るユイナの血液。甘い。
「私気付いてたよ、でも、でもいいの、一緒にいれるなら一緒にいたいし、食べられるなら食べられても、私はそれで幸せ、好きな人に食べられて死ぬなんて最高じゃん、必要な物とお金なら全部バックに入ってるから上手に使って、生きて幸せになってね」
何言ってんだよ。僕は人間。僕は人間。僕は人間僕は人間。僕は人間。僕は人間。腹が鳴る。溢れる唾液。違う。違う。違う。違う。チアがうあういいうううう!!
「愛してるよ」
ユイナが呟き目を瞑る。


僕は。